VOCA展2018 現代美術の展望─新しい平面の作家たち

2018/315(thu.) - 30(fri.)

10:00 - 18:00

上野の森美術館

東京都 台東区 上野公園1-2

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描かれているのは「室内の風景」だが、画面はいわく形容しがたい捻れと緊張を孕んでいる。天窓に映りこんだ室内の光景―その時点で鏡像であり、かつ天地が逆転している―をメモや写真に記録し、さらにそのイメージに幾つかのの操作を加えた上で描いているからだろう。大画面にふさわしい構図を求める試行錯誤の中で行った操作が、小穴の制作に飛躍をもたらした。

 

 

自らの記憶を頼りに、日常の何気ない光景を直観的な筆遣いで絵画へと変換するこれまでの制作プロセスは、モチーフを転倒・反転させることで半ば無効になる。制作は、見たものの再構築ではなく、画面上の色と形そのものに意識を集中させ、ヴァルールを見極めて筆を重ね、絵肌に抑揚をつくり、部分どうしの調和と拮抗をコントロールする禁欲的な行為へと変化する。そうして獲得された緊張感に満ちた全体は、モチーフにも伝統的なイリュージョニズムにもとらわれず、ただ「描くこと」のみを通じて成立する絵画空間と言えるだろう。

 

一方、油彩と対になる小品は版画である。即興的で自由闊達な線は転写によって反転し、小穴の予測を裏切るイメージとなって現れたはずだ。これもまた、「描くこと」を客観視し捉え直すための実験であり、油彩と問題意識を共有しつつ並走している。

 

対象にも主体の恣意性にも搦めとられることなく、純粋に「描くこと」のみを通じて「絵画」に到達すること。奥深く困難なこの命題に愚直に向き合う画家の姿勢は、信頼に値する。(大浦 周 /埼玉県立近代美術館 学芸員)