個展
"For days of the have-nots"
Creativity still continues ♯13
Kotoe Oana Exhibition
2021.10.2(sat.)-10.22(fri.)
12:00-19:00
RISE GALLERY
東京都目黒区碑文谷4-3-12 1F
輪郭をなぞる
滲む色彩に、柔らかなストローク。日常的なモチーフを「きっかけ」にして描かれる小穴琴恵の作品は、「絵画であること」に極めて誠実だ。
それは何かを模倣することなく、ただ「絵画」としてそこにある。ウンベルト・エーコは詩学研究の視点から、曖昧に解体された記号的形態が誘う観者の断続的な「読み」の可能性に、ある豊饒さを指摘しているが、小穴の作品にはまさに豊かな「詩学」が宿っていると言えるだろう。動きの記録としての(それは作者の、であり、モチーフの、であり、また観者の視線である)線と色彩は、言葉=シニフィアンの如く、まるで詩を書くように紡がれる。断絶と空白に、そしてその結合にイメージそのものが現前するのだ。
加えて今回の展示において特筆すべき点が、意識的に作り込まれたテクスチャーだ。《山と一杯のお茶》は緩く波打つような荒い麻のキャンバス上の、艶々と輝く色彩が印象的な作品であるが、そこに描かれているのは「手触り」だ。柔らかく湿った空気。それはまさにぼんやりと靄に煙る山中の空気であり、カップから昇る暖かな湯気である。しかしそれもまた断片的な感覚だ。しかしだからこそ、それらの断続性故に、小穴の描く「絵画」は何かの似姿ではない、五感を伴った実に自律的なイメージとして立ち現れ続ける。「絵画」はその支持体上に鮮やかな空気を抱えて、ただそこに存在していた。世界がそうであるように、それもまた、ただそこにあったのだ。
當眞未季
1989年生まれ。2014年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻芸術文化政策コース修了。